また素敵な詩人を見つけました。
当時サルトルに絶賛されたそうですが、今は埋もれてしまっています。こんないい詩人がもったいないです。 -------------------------------------------- 軟体動物 フランシス・ポンジュ(1889年、フランス生まれ) 阿部弘一 訳 軟体動物は、〈殆ど―資質そのものである―存在〉である。それは、骨格を必要とはしないが、城砦だけはなくてはならない。まるでチューブの中の絵の具のような何かなのだ。 自然は、この軟体動物においては、血漿を形態で示すことを断念しているのである。ただ、内側の面がもっとも美しい宝石箱の中に収めて、それを念入りに保護していることを示しているにすぎない。 それは単なる唾ではない。もっと貴重な物の一つの現実なのだ。 軟体動物は、自己に閉じこもろうとする強力なエネルギーを賦与されている。実をいえば、軟体動物は筋肉であり、蝶番であり、自動閉鎖ばね(ブラント)であり、その扉であるにすぎないのだ。 扉を分泌する自動閉鎖ばね。浅い凹面の二枚の扉が、その全住居を構成しているのである。 最初にして最後の住居。軟体動物は死ぬまでそこに棲む。 生きているまま、軟体動物をその住居から引き出す術はない。 同様に、人間の肉体のもっとも小さな細胞も、この力で、――しかも、相互的に、言葉に密着しているのだ。 だか、ときとして、他の生きものがこの墓場に侵入してくる。そしてうまく体にあうと、死んだ建造主に代わってそこに棲みつく。 これはやどかりの場合なのだが。 ※フランシス・ポンジュ『物の味方』(思潮社、1971年)
by Fujii-Warabi
| 2007-03-31 15:11
| 詩人・芸術家の紹介
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