ご無沙汰しております。
最近、不調でひきこもりしています。 こういうときはことばもでなくて、書き言葉どころか話す言葉も出てきません。 …でもこれを書いているということは少し脱しつつあるのでしょう。 ただ数百㍍歩いているだけで右脇腹が痛くなるほど体が歪むので憂鬱になります。 (先月末の話。) そんなときにはうちで映画。 ポーランドの監督・キェシロフスキーの『デカローグⅢ、Ⅳ』、オルミ、キアロスタミ、ケン・ローチのオムニバス『明日への切符』をレンタル。 キェシロフスキーは私が一番好きな映画監督で、『デカローグ』を借りるのは2度目。 この映画は「十戒」をテーマにした作品で、つまり10作のシリーズものです。 予算がつかず、一本一時間のテレビ向けに制作、「ある愛に関する物語」「ある殺人に関する物語」は傑作とされ、劇場用に編集しなおしたバージョンもあります。 今回観たのは、「あるクリスマス・イブに関する物語」と「ある父と娘に関する物語」。前者が印象深く、主演女優の演技にも惹きつけられたのですが、今回は後者のほうがうまくできた作品のような気がしました。 「娘」が演技指導を受けるシーン、眼鏡を合わせるための検診のシーンなどが本筋と直接関係がないだけに詩的で、テーマと微妙に絡み合いつつもこれ自身で光っていました。(このあたりキェシロフスキーと趣味が合うな…。) また、光の映し方も深みがありました。 『デカローグ』シリーズは「十戒」をテーマにしながら、今のカトリック的なものでなく、逆に「宗教」とはなんなのかを突き付けるような内容です。そのため、「弱い人間」がたくさん出てきて、多くの罪を犯します。「不倫」「殺人」「盗み」「重ねてゆく嘘」など。でも、それはもともとの旧約聖書で描かれている人間像なのです。この映画は現代の聖書です。 キェシロフスキーは個人を徹底して描きつつ、誰をも責めません。「愛」「赦し」が宗教の一番の理由なのです。 ポーランドは20世紀、「政権」と「カトリック教会」が権力となり、人々の内面をも支配してきました。キェシロフスキーは映画制作に介入してくる権力に負けずに(時に「妥協」しながら)、ソ連・東欧崩壊までボーランドでポーランドを舞台に映画を撮り続けた希有な監督です。「当時、民衆だけが味方だった」と彼は振り返っていましたが、この映画も「カトリック的」でなく、教会や批評家たちに相当バッシングされたようです。そこまでして監督が伝えたかったものは普遍的なテーマで、この映画は歴史に残る名作でしょう。スタンリー・キューブリックは生前、「この20年間で一番素晴らしい映画」と讃えていました。 『明日への切符』も同様に傑作でしたが、疲れたのでまた次回。
by Fujii-Warabi
| 2008-12-09 22:44
| 芸術鑑賞
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