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短歌同人誌『町』を読んで

先週の「ならまち大人の文化祭」で吉岡太朗氏の参加する短歌同人誌『町』創刊号を入手したのですが、これがかなり良くてここで少しご紹介させていただこうと思います。

まず、巻頭を飾る瀬戸夏子さんの詩のような短歌「すべてが可能なわたしの家で」。
 すべてが可能なわたしたちの家で これが標準のサイズ
 二重の裏切り、他になにもない朝の音楽に
 もう何リットルかわからないけれど、生きてるかぎりは優しくするから
 あなたが日本人だとしてもわたしたちにはまるで関係がないって

二連目
 わたしたちが住んでいる 家ではこれが標準のサイズ

とてもインパクトの強い始まりである。
タイトルは「わたしの」となっているところが、歌では「わたしたちの」「わたしたちが」となっており、共同体を指している。「これが標準」と決められ、私たちは教育によって叩き込まれてきたのだが、瀬戸氏の〈狂気〉とも名付けられそうなほどの豊饒なイメージによって、それらが覆されてゆく様が心地よく感じられる。

 
 どうしてこんなに 美しい日本のわたしたちの
 必要最低限なエロほんに関わるために電車がいくたびも憂鬱に、通り抜け
 子どものころからずっと一緒、おしりがいくつも隣に並んで
 青森に厚かましいりんごが生きていて友人が生きている注意を払わない


「あなた」のアイデンティティは「日本人」かもしれないけれど、「わたしたち」はどうやらそこからズレたところ、あるいはこぼれたところにいるようで、それもはっきりとはしない。現在の「共同体」の曖昧さを描いているようだ。しかし、もともと共同体というのは境界があったり目に見えるものではない。「わたしたち」というのは書き手と読み手、つまり文学によって繋がった者たちであろうか。一方的に括られ線引き・排除される「美しい日本」「日本人」から逸脱して、ここに「共同体」を創造したいという願いを込めているのであろうか。
本来人は「すべてが可能」なはずである。しかし、二極分化したこの時代私たちは、世界を牛耳る〈多数者〉に「標準」「常識」を押しつけられ、「不可能」を言い渡されている。しかも、「あなたの努力次第だ」という自己責任を負わされて、「落伍者」は〈少数者〉とされて。だが、文学者・芸術家はそれを超えることができる。だから、この作品はシュルレアリスティック(超現実的)なのだろう。
一連二行目の「二重の裏切り」という言葉がとても気になった。一つ目の裏切りは、「現実」への裏切りだろう。二つ目は、おそらく読み手の読解への裏切りなのではないか。「こうである」と解釈した途端、ポエジーというのはするりと逃げてしまう。線引きするような意味を求られ、形へとはめられることをきらうからだ。

この他にとても素敵なヴィジョンやフレーズがたくさんあり、ご紹介したいのですが、書きすぎると野暮ですし、疲れてきたので、実際に誌面を見て感じていただきたいと思います。

そして、吉岡太朗氏の「魚くじ」。

 ロケットを猫がしきりに舐めるので少し削って出汁にしてみた
 霧雨の夜の電話にでてみたら受話器が耳に触手をのばす
 町中の電信柱がぐにゃぐにゃとお辞儀をするのでえらいひとです
 取り皿を両手に持った行列のさわれる耳たぶいやな耳たぶ
 そのたびに泥がこぼれる 図書館の本の着ぐるみ剥いだら魚
 かろうじて鯉だとわかる きらきらと鱗のかわりに画鋲まみれの


冷ややかな固形物と生々しい有機物のコントラストが見事で、それが触感に訴える爆発的な力を放っているように思う。
「魚」は西洋の象徴では「生命力」を表すが、「魚くじ」には、穏やかな春の海を照らす陽光に魚の鱗が輝くような、生の力(エロス)が漂っている。かなりシュールなのに、現実味を帯びて生き生きと胸に広がる身体性が彼の作品の優れたところであろう。

その他には平岡直子氏の「Re:/Fe:」が良かった。宮沢賢治・他の同人への返歌なのだろうが(「本歌取りの複数」と書かれているが)、多声的で「ともにある文学」としての心地よさがあった。そして、実験的・創造的な試みにわくわくしながら読ませていただいた。もちろん、イメージが目の裏に浮かぶように鮮やかで作品自体が素晴らしかったのは言うまでもないことである。

『町』を手にしたとき、まずシンプルな雑誌名、緑一色の表紙に惹かれた。なにか素直なものを感じたからだ。
内容はシンプルではなく、作品はそれぞれ個性があり、様々な声を響かせあうような共同性がある。時代や空間の広がりがあり、世界へと開くような、呼び掛けがある。落ち着いた雰囲気なのだが、その内に秘めたエネルギーはこの時代のシニシズムを超えてゆくようなものを感じた。「すべてが可能」だということをしっかり胸に刻もうと思う。


なにやらエラそうなことを書きましたが、私は短歌はあまり読み慣れていないので、感想程度とお考えいただければと思います。
『町』の詳細は http://000machi000.blog42.fc2.com/
こちらから購入することもできます。一部500円です。
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吉岡太朗氏の直筆。私の一番好きな歌を表紙裏に書いていただきました→
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by Fujii-Warabi | 2009-06-13 11:34 | 詩人・芸術家の紹介