<   2008年 08月 ( 4 )   > この月の画像一覧

火薬                      井之川巨


目を開ければ蒲団はずり落ち
冷たい月の光が
後向きに寝た女房の顔を
タイルのように白く照らす

蒲団の裂け目に手をかけ
ずりあげようとすると どうしたことか
蒲団の裂け目にはみだしているのは
綿ではない
コッペパンほどの火薬袋なのだ

マッチ一本すっただけで
ボイラーより熱くもなろうが
おれと女房の体は一瞬どこかへふっとび
どんな外科医も縫合のきかぬ
百の肉片になっただろう

おれはこうもりよりも敏捷に月の光の下をとび
昼間工事した警視庁におりたつ
そして秘密書類の脇にすえつけた
暖房用のラジェーターの下に
おれはコッペパンほどの火薬袋をしかける

おれは隣の警視庁長官室のラジェーターの下に
火薬袋をしかける
また隣のバスルームのラジェーターの下に
火薬袋をしかける
おれのしかけた火薬のために
一大音響とともに

かれらはみんな素っ裸で骨のずいまで温まり
やがて冷たくなっていくだろう
そしておれは密かに
凶悪犯人のようなほくそ笑みをもらすのだ


※『新・日本現代詩文庫17 井之川巨詩集』(土曜美術社出版販売、2003年)、詩集『おれが人間であることの記憶』「生活者のうた」(1956~74)より


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
相棒の買ったばかりの詩集を取り上げて開くとこの詩が出てきた。
「おれ」は寒さのせいで目が覚める。貧乏のせいなのか「女房」との仲も冷えている。でも、唯一「おれ」の心を温めてくれるのは、「火薬」をしかける真夜中の夢なのだろう。そして、これこそが詩なのである。
[PR]
by Fujii-Warabi | 2008-08-12 16:04 | 詩人・芸術家の紹介

モディリアーニ展を観て

先日、大阪中之島の国立国際美術館でモディリアーニ展を観た。
この画家に特に関心はなかったのだが、春ぐらいに調子を崩していて随分美術館から遠ざかってしまったので「美術館に行きたい」という欲求が足を向かわせた。私は「美術館」という場所がまず好きなのだ。そんなわけで実に気楽な気分で出かけた。
顔も首も全身長~い絵ばかりがずらっと並んでいた。はじめは妙だなと思っていたのだが、それが当たり前の人間の姿であるように思えてきて、マジックにはまってしまった。ほとんど女の肖像画か裸体。
そうそう、小さな子ども連れの夫婦がいて、子どもにお父さんがタイトルを読んであげていた。「嘆きの裸婦」とお父さん、「ラフってなに?」と男の子、「裸の女の人のこと」とお父さん。ある展覧会にモディリアーニが作品を出品すると、「風紀を乱す」とかの理由で警察に却下されたぐらいの裸の絵なのである。親子の会話がなんだか面白くて、くすっと笑ってしまった。
私が一番気に入った絵は最愛の妻を描いた「大きな帽子をかぶったジャンヌ・エビュテルヌ」。モディリアーニの絵はあまり表情がないのだが、この絵は控えめですました表情に見え、逆に二人の関係が表現されているような気がする。幸せな感じなのだ。
たまに関心のさほどないものも観たり読んだりすると逆にいい刺激を得られるようで、有意義な週末だった。
モディリアーニ展は9月15日まで。http://www.nmao.go.jp/
[PR]
by Fujii-Warabi | 2008-08-11 22:35 | 芸術鑑賞

16号締め切り

『紫陽』16号の原稿締切は10日です。
最近遅れる人が多いのですが、
編集に差し支えますので、お早めによろしくお願い致します。
[PR]
by Fujii-Warabi | 2008-08-07 16:18 | 紫陽の会

つばめとスペイン語とウィーンと

体が暑さに慣れすぎて(?)クーラーをかけると辛い。
31℃の室温がちょうど良くなっているようだ。
根が冷え性なので、夏でも足が冷える。

最近、うちの前ではコシアカつばめの子どもたちが飛行の練習をしている。
巣がツボ型なので、ひなの時は見られなくて残念だったが、
子どもたちはまだまだ小柄で毛が柔らかそうで可愛い。
うちの猫も彼らが大好きで、見たいといって玄関でなく。
心を騒がせるなにかがあるのだろう。

わたしは今年からスペイン語を勉強しているのだが、
ラジオ講座も佳境に入ってきた。点過去、線過去、接続法……、
なにやら活用が多く、訳が分からない。
もちろん覚えられていないからなのだが…。
岩波新書の『スペイン現代史』もぼちぼち読んでいる。
前半は独裁者フランコを中心に書かれていて、ちょっと問題を感じるが、
ヒトラーやヒロヒトと比較しながら読むと面白い。
スペインは現在の国王ファン・カルロスがフランコ亡き後、
民主主義的に改革していったようで、それも興味深い。

わたしは語学勉強がとかく好きなようで、
英語にはじまって、大学でフランス語、ラジオ講座でドイツ語を
学習?していたことがある。
しかし記憶力が悪いので全然身についていない。
あくまで、言葉との出会いにわくわくしたいだけのようだ。
スペイン語だけはきっちりやろう、とは思うもののどうなるやら。

並行して、『ウィーン世紀末文学選』(岩波文庫、池内紀訳)も読んでいる。
短編だし、ライトなものが多く、寝床で読むのに向いている。作者は
シュニッツラー、バール、アルテンベルク、ホフマンスタール、ブライ、ツヴァイクなど。
作品がこうして同時代で並んでいると作者の経歴と併せれば
時代が自ずと見えてくる。
1930年代に入ると、ほとんどの作家が亡命している。
そのこと一つでナチスと支持した大衆がどれだけ恐ろしい存在であったかを物語っているようだ。
[PR]
by Fujii-Warabi | 2008-08-07 16:00 | 身辺雑記