カテゴリ:藤井わらびの詩( 29 )

イダヅカマコト氏による「名前を呼ぶ」評

 ポエムコンシェルジュ・イダヅカマコトさんが私の詩「名前を呼ぶ~ガザへ~」の評を書いてくださっています。
加害者側のイスラエル元兵士の話を思い出したとのことで、自分の身に引きつけ、とても丁寧に読んでくださっています。
私は日本人として侵略者側にある者として、日常の中ですべきことを考え、書きました。
結局、〈帝国〉の戦争は、〈帝国〉の拠点で、内部の人間が現状のシステムを崩してゆくことでしか終わらせることはできないのだと思います。
それを感じていただけたことが有り難いことです。

貴重なガザの映像が紹介されていますので、併せてご覧ください。
http://archive.mag2.com/0001086342/20100329190000000.html
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by Fujii-Warabi | 2010-04-06 10:49 | 藤井わらびの詩

冬は耳がきこえにくい。

地球は実はぐるぐる回っているし、ぐらぐら揺れている。

それを感じられるこの季節。

春先にはばりばりと心の兜が割れる音がする。

痛いけれど、それがなくては、大きくはなれない。

眩暈と胸の痛み。憂い。

そして、気狂い。

これを乗り切るために一年がある。

成果を試す時が近づいてきた。


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   難聴
                  藤井わらび


路は導火線となり
鼓膜の中で華がパチパチ鳴っている
わたしは灼熱の海に投げ出された蝸牛

携帯電話を耳にあて
結ばれるのを待っている
その大切な人は声
便器の奥から噴き出すペリカンのような

“カムカム”
             そういえばかめかめという補聴器があった
招かれても一寸先は炎
“わたしの声きこえてる?
 今月の水光熱費はらえるかしら?”
“ヒヤヒヤ、ヒヤヒヤ”
―――ここはそこよ。

せっかく見つけた魚が燃えていた


※『紫陽』16号(2008.9)より
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by Fujii-Warabi | 2010-02-06 16:16 | 藤井わらびの詩

落ちる瞬間

   falling moment

金魚すくいの薄い膜から
あなたの指は破れて落ちた

 階段を転げ落ちる時
 何を想うだろう
 ついてゆかない感覚
 それを後に掴むとき

人差し指が金魚鉢にスプラッシュと落ちた
広がる王冠のような波紋
群がる魚たちは
その一瞬という小さな獲物を
あぶくも立てずにつついている

                    (2009.5.13)


出来立てほやほやの詩です。
不眠症が厳しく、この10日ほど一時間半/日しか眠れないので、
漢方薬を飲んでいるのですが、これまた効かなくて、
しようがないので、眠剤を飲みました。
それでも四時間しか眠れないので、しようがないから詩でも書いてみました。
起きた瞬間のイメージです。
こんな感じで気楽に詩を書くというのも、昔はやっていたのですが、
再び戻ってみたい気がしました。
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by Fujii-Warabi | 2009-05-13 05:31 | 藤井わらびの詩

詩2篇

  小さな画家

絵の具がないから空のパレットから
色を頂戴した
誰にも出せないような光彩を使い
真っ暗な心に星を描いた

「空の星が翳(かす)んでいます。」
それはネオンのせいでしょう
ぼくは泥棒じゃない
あなたたちの方でしょう

校庭の一、二、一、二の掛け声 寒気がした
太陽のヤツ、ニヤリとした
ぼくの体に熱を入れようと
筆で太陽の黄を取り、体じゅうに塗りたくった

「旗の赤が薄くなりました!!」
いえ、太陽は赤くない
太陽はすべてを照らすもの
泥棒はぼくじゃないです


   家と子

父を殺したのは誰?
物陰から小型拳銃で狙い撃った
能面のか細い女
わたしはすぐ彼女を匿った

あんなに優しい人だったのに
膝をついて母は嘆く
まわりでたくさんの子どもたちもぴーぴー泣いている
でも誰も犯人を捜そうとはしない
数日経てばみんな忘れてしまうだろう
そして彼女も家族になるだろう

馬小屋を改造した狭い家
ひしめき合う中、大男が今日消えた
今日はわたしの誕生日
ケーキはないし当分ごはんにも困るだろうけど
わたしは外で拾い食いをするだろう
もう二度とつまようじなど啣(くわ)えない

スマートな手際だったね
彼女の耳元で囁く
わたしなら丸太で何度も何度も殴ったろうに、
やっと彼女はにっこり笑った

いつまでもいい子でいたかったな
でもやっぱりさぁ
母さんが口うるさいようでいて
父さんが二階でどっかり座り込んでいたわけだから

わたしらが心まずしいのは結局……
わたしたち二人は話半ばで寝入ってしまった


※紫陽の会『紫陽』第13号(2007年9月20日)

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最近自分の詩をアップすることを忘れていました。
『紫陽』に載せているから、まぁいいか、という感じで…、
あとは、2年も前のものを古く感じてしまうので。
『むらさきの海』を昨日読み返してみましたが、
他人の作品のように思えました。
どんどん変わってゆく中で、詩集という形で「過去」を振り返ることができるのは
詩集をつくった一つの意味でもあるのでしょうか。
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by Fujii-Warabi | 2009-05-11 17:34 | 藤井わらびの詩

オクラの話

古代には変わった名前がふつうにあった
子どもの私はそれが面白かった
入鹿に妹子に憶良
入鹿は関西弁ではあのイルカと同じ発音
妹子は実は芋子だったり?
しかし憶良は特別だった
山上憶良は「貧窮問答歌」で農民の暮らしを訴えた
彼らの貧しさをおもい、彼らと共にありたいものだと
自分の名前をオクラとしたのかと納得した
何を隠そう、私の名も変わっている
「わらび餅」といじめられ親を恨んだこともあった
同じ植物の名前、しかも庶民の食べ物
私は憶良に親近感を覚え、オクラに想いを馳せた
サッと茹で、かつお節を掛け、醤油を垂らす
そのシンプルさは庶民そのもの
古代からこのネバネバが農民の命を支えてきたのか
とオクラを食べる時いつも胸が熱くなった
オクラは「憶良」といい漢字だし
憶良は素晴らしいペンネームを付けたものだ

という感動も五年余りしか保たなかった
私はある日、アメリカの大柄な黒人女性が料理する姿をテレビで見た
なんと!あのオクラを大鍋に大量に放り込み無造作に掻き混ぜスープにしている!
そしてナレーションはそれをアフリカの伝統料理だと言うのだ!
オクラはワラビと同じく日本古来の植物、和食の基本ではなかったのか?
では、憶良はオクラではないのか?!
裏切りだと感じた
幻滅などというものではない
テレビに「あなたの頭は不必要」と爆破された気がした

何年ものちに私は『人間失格』を思い出した
田舎者の「私」が街で初めて見る停車場のブリッジにとても感動する
しかし最高の装飾品がただの陸橋で実用品でしかなかったことを後に知る
甘美な遊戯などなく味気ない近代化
「私」は自分の幸福観に不安を抱く

だけど、
こっちの失格者は今や頑固者になり、頭もより良く改良し、世界中に広がる青々としたオクラ畑を夢想している
どちらにせよ、オクラは貧民の命を支えているのだから



※紫陽の会『紫陽』11号(2007年1月20日)

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by Fujii-Warabi | 2007-02-23 15:11 | 藤井わらびの詩

神の子猫

ツナ缶を夢中で食べた
その子はぐっすり眠る
私のクッションの上で
我が家に無事に辿り着いた小羊のように

幾多の誘拐の企みが失敗に終わったのも
きっとこの子の帰りを待っていたから
もう二度と別れたくない と私は泣いて
雨宿りは一生いっしょにこの家ですることにした

高い死の峰を越えた時
神様から授かった白い同行者
その全身は愛と好奇心で満たされた
猫の姿を借りた 幼い妖精

何度捨てられても 死にそうにひもじくても
大切なことは忘れずに
私の家を選び いとも軽々と運んできた
裏切られて擦り切れかけた 私の心に

永い雨が降っていた
この子を家から追い出さないように
魔の闇へと放り出さないように
裏切られた私がもう復讐しないように

永い雨が降っていた
雨を止める祈りに留まらず
黒い夜雨のトンネルを潜(くぐ)り抜けた
この子の白さを私は学ばねばならない
遠くからでも光る強靱さを



※紫陽の会『紫陽』10号(2006年9月20日)掲載
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by Fujii-Warabi | 2006-11-01 16:48 | 藤井わらびの詩

脱走

 干からびゆくひらきうなぎは強張った躯をぬたくらせ灼爛のアスファルトの坂道を下る。〈煮えたぎる太陽が真上に来る時、銀のまな板の上で首を切り落とされる運命だった。〉うなぎはバケツを倒して逃げたスケープゴート。追っ手の罪人に気づかれる前に池へ、池へ必死で戻らねば…。アスファルトの上で躯の水分はみるみる奪われてゆく。厳格な太陽によって。「早く! 早く!」 焦っても硬まりゆく躯。まな板の処刑よりはマシなのか…。うなぎが何をしたというのだ。
 陛下の従順な下僕、罪人はようやくバケツがカラなのに気がついた。血相を変え、冷や汗を流し、坂道を転がるように追ってくる。「女王陛下からやっとのことで免罪符を戴いたのに! あのこしゃくなうなぎめ!! 命を懸けてでもあのうなぎを捕らえねば、メンツも立たないし、いい笑い者だ!」 男は全力疾走、元の池に辿り着き、シャツも脱がずに飛び込んだ。                                (正午まであとわずか)
 うなぎは路肩の溝へ入り、躯に充分な潤いを戻し膨らんだ。もう彼は惨めなうなぎの干物などではない。水に帰ればこちらのもの。うなぎは元の池を目指してゆうゆうと泳ぎ始めた。

 満月は潮を操り、うなぎを呼ぶ。生に水を与えるのは月の役目。白いほのかな光を浴びながら、うなぎは月をほっと見つめた。



※紫陽の会『紫陽』9号(2006年5月20日)掲載
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by Fujii-Warabi | 2006-11-01 16:46 | 藤井わらびの詩

ふえる・うえる・かえる

うちのアルベールはいつもにっこり
おなかぽっこり
とても愛らしいフランスがえるさんなのです

街にはかえるさんグッズが増えています
うちにはさんしょう魚のなごみちゃんまでいます
疲れた都会人はそののどかさに癒されているのです

かえるさんは田んぼや川から姿を消しかけています
こんな薬漬けの環境に耐えきれず
かえるグッズへと魂を移し替えざるを得なくなったのです

オプティミストのかえるさん
それでも笑っていたいのです
末永く生き続けたいのです
今日も店頭で山積みにされ、にっこり微笑んでくれます
古里を捨てた私に

かえるさんは貧しい人々が大好きです
心ばかりでなくおなかにだって住めるから
グゥーグゥーグゥー
イの中のかえるさんは鳴きます
もう外の世界へは戻れません
泣きたくなったら
グゥーグゥーグゥー
生き続けます
貧しい人々の体に乗り移り
クワを翳(かざ)してたたかいます



※紫陽の会『紫陽』8号(2006年1月20日)
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by Fujii-Warabi | 2006-11-01 16:40 | 藤井わらびの詩

ガラスの涙

夕霧の降りそそぐ中
ふたりは閉ざされたまま佇んでおりました
 だめなのね
わたしはガラスの涙を流しました
 あぁ
彼は凍えそうなガラスに目を背けました


わたしは王に仕える
アンドロイド
プログラムされた人工頭脳
胸の高鳴りさえ
規則正しい機械音

彼はもうすぐ息絶える
命短くともたくましい羽
(以前も同じだったわ ごめんなさい)

地も吸わぬ偽物の涙を流すうち
彼は使命の空へと飛び去ってゆきました



※紫陽の会『紫陽』6号(2005年5月20日)、詩人会議グループ風歌『畑からのあいさつ』18号(2006.9.22)掲載
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by Fujii-Warabi | 2006-11-01 16:38 | 藤井わらびの詩

のっぺらぼうの風船

風船たちはふわりふわり いつの間にか飛んでいってしまったのです
わたしの手を離れ よくわからないどこかの街へ
しっかりと握りすぎていると潰れるし
緩すぎると そう こういう風です

風の吹くままに飛んでゆくのでしょうか
右から吹けば右へ
昨日から吹けば昨日へ

風船たちよ ここにいなさいよ
言っていたのに いつの間にかいなくなる
あのとき叩き割ったほうがよかったのかしら
右へ昨日へと吹かれてゆくよりも
風をつくるにはわたしの力は少し足りないかしら
でも もうそれ以外には道はないのです
赤い丸を一つつけられたのっぺらぼうの風船たちには



※紫陽の会『紫陽』第4号(2004年9月)掲載、一部改稿
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by Fujii-Warabi | 2006-10-31 00:01 | 藤井わらびの詩