ポール・エリュアールに     瀧口修造

    1

 天使よ、この海岸では透明な悪魔が薔薇を抱いている。 薔薇の頭髪の薔薇色は悪魔の奇蹟。 珊瑚のダイナモに倚りかかりおまえの立っているのは砂浜である。 神が貝殻に隠れたまうとき破風に悪魔の薔薇色の影がある。 それは正午である。

    2

 やさしい鳥が窓に衝突する。 それは愛人の窓である。 暗黒の真珠貝は法典である。 墜落した小鳥は愛人の手に還る。 蝸牛を忘れた処女は完全な太陽を残して死ぬ。 舞踏靴は星のようにめぐる。


※『瀧口修造の詩的実験1927~1937』より

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ポール・エリュアールという名を知ったのは実はこの詩に出会ったからだった。瀧口の刺激の強すぎる詩の中ではこの詩は短く読みやすかった。1章は特に好きで、私にはキリコの原風景のようにはっきりとした映像が見える。しかしなんとキザで魅力的な悪魔なのだろう! 薔薇を抱え、薔薇色の頭髪をして、真っ昼間から海岸に立っているのだ。天使のいる昼を乗っ取り、勝利の微笑を浮かべている美しい悪魔が浮かんでくる。
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by Fujii-Warabi | 2007-10-16 21:19 | 詩人・芸術家の紹介
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