ただ一つのイマージュとして                      ポール・エリュアール

                            (安東次男訳)
         1

ぼくは昏(くら)い宝ものを隠している
未知の巣
森の心、灼ける火矢(ひや)の
眠り
ぼくをつつむ
夜の地平、
ぼくは頭を真っ先にしてゆく、
あたらしい秘密で
映像(イマージュ)たちの誕生にあいさつする。

         2

病人たちの枕もとに置かれたラヴァンド
その市松模様、用心深い乾いた種族たちが
祭日を変える かれらの心を締めつける、
むらがる悪魔の手が掛布の上に置かれる。

手のこんだ刑だ 猿たちのいる 嘲りで充満した枝
友情(ラミチエ) 半欠け(ラ・モワチエ) 母親旗(ラ・メール・エ・ラ・バニエール)
人は竿を敗北に差し出す
年とった猿たちは真っ昼間の神経を持っている。

消えたランプ ベテルのランプが
一つの額の曲り角に現れる
と 鈴生(な)りの頭をつけた木
くっついた双生児(ふたご) 念入りに髪をととのえた血が現われる

かれらはどんどん成長する。

         3

樹液たちの花束 風が馬乗りになる真紅の火
被さる烟(けむり) 世界を攻略する軍隊
空気でできた拷問の泡 現存
地球上でいちばん高い額への執着。

         4

獲物を狙う甲冑 黒衣をつけた香りが輝く
樹木たちは巴旦杏(アマンド)でできた風景の帽子をかむる
すべての風景のゆりかごである風景の。散らばる鍵たちと骰子(さいころ)たち
不安の平野たち 白大理石の山脈(やまなみ)
野の灯し火 恥じらいと嵐
火にささげられた不測の身振り
溺死者たちから海を隔てる流れたち
これらすべての不可解な謎。

あざみの花が城をつくる
あざみの花は風の階段を昇る
そして種子たちは死の先頭に立つ。
光る窓硝子の漆黒の星たちは
かれらの恋人たちに全てを約束する。
装う他の者たちは
鉛のような秩序を支える。

唖になった 人間の不幸
その顔は夜の明け初めだ
牢獄のように開く、
その眼は切られた顔だ
そして指は 算え計り
捉え 説得することに役立つ
指は人間を縛ることを知っている。

公衆の廃墟がもつ
ばらばらの感動
水を割った情熱、
稲妻の恐怖に吊された粉飾
この鉛色の牧場では 岩がはねる
すてきなこまごまとした家具たちに飾られた
ひとつの墓がここに終るために、
のろまな淫蕩の上の一枚の絹の被布(かずき)が
それからまた唯一撃で背中に打ち込まれた
一つの斧が 終るために。

眠りの盆地で
沈黙は子供たちを起す
これらは鼓膜をつんざく宿命の音だ
色たちの 埃にまみれた死
白痴
最初の怠け者
そして不眠は機械的に寝返りを打つ
耳 鉄かぶとのように頭の重くなる葦
気むずかしい葦 濃霧の中に忘れられた敵
そして底のない沈黙の井戸
それは名指しもせずに自然をくつがえす、
微笑する罠を張る
それとも怖れさせる不在を……、
それは唇たちの一切の鏡をこわす。

海の只中にいるように 柔かな腕の中で
波たちは好天に帆をかけて走る
そして血は全てに導く
そこは立像のない場所
漕ぎ手のない 黒いテントのない
虹色にかがやく むきだしの場所だ、
光のお気に入りの
迷い子になった花という花たちが
大胆な妖精たちを隠す と
無関心の宝石が一つ生まれる
すべての心に合わせて
笑いを彫った宝石
子供たちが大人たちの遊びをやめさせる
不思議な家。

希望のまわりに
平静(やすらぎ)がつくる空白の
この純粋な喪失。

         5

理解された入口
待っている入口
一人の女囚
それとも誰もいない。
破れた奔流と
砂の舟が
葉を落ちさせる。

光と孤独。

ここ ぼくらの瞼を開けるために
灰だけが動く。

         6

フクロウ カラス ハゲタカ
それ以外の鳥をぼくは信じない
いちばん重い道は首を吊った
すべての塔が見晴らしだ、星たちと戯れる、
影は窮屈になる、荒らされ、粉々になる
太陽の樹々は烟の樹皮をもつ。

窓硝子が脱皮する。ぼくの力はぼくを翻弄し
つまずかせる。遠くに家畜の罠がある
それから小径たちの磁石 罠を避けるための策略。

むろん子供たちは共犯だ
手を隠して彼らは冠毛と羽根を消す
九つの笑いを餌(えさ)とした無邪気(あどけなさ)
怖れさせる鋏の不透明な震え
夜はかつて何ものも見なかった 夜は新鮮な空気を呼吸する

すべての接吻が岸を発見する。

         7

孤独な男よ くちばしを何処へやった
おまえの翼は何を目覚めさせる
丸々と肥った手 有無を云わさぬ力
それを蔽う猛禽の魔法
茨の廃墟
それと汲めども尽きぬすばらしい手をもつ卵
指がゼロのしるしをつくること
それとも滝たちの鏡板か? 孤独な男よ 水が手をさし伸べている
遠くには雪が そしてそのすすり泣きが、
夜は色あせ 大地は虚脱している 孤独な男よ。

         8

きみは ぼくの家にいる。ぼくは ぼくの家にいるのか?
ぼくは ぼくの家で
ちょっとした見物(みもの)など起こらないように
必要なだけの場所を確保する。
他所は鎖だな――環(わ)がいつも息づく
眠っている者たち
路を無視して
張りわたされたかれらの胸のアーチ
ふと耳に入る ゆきあたりばったりにノックする音 それとも理由のない叫び声
橋が息づく
すると接吻が反射たちに似てくる。

光の庭に
かれらの光の表面に
目は閉じている
搖籠たち――まぶた――この昏(くら)い色たち
藁でできた鐘 このはじける火花たち、
オアシスを隠す小さな隠し場たちに
砂があいさつをする。
宇宙もなく裸足で歩いてくる忘却が
全裸になる――空――。

星たちが夜と入れ替わった
すると 一切の夜明けである星たちだけだ
眠りがもつすべての季節の 誕生
結ばれる未知の手たちがつくる 貌、
明るいあるいは閉じられた 尻の重いあるいは身軽に先頭をゆく
ぼんやりとした形(フォルム)たちを 生き生きとさせるために
また 額を星たちにもたせて
眠る あるいは目覚める ために
取り替えられた生たち この一切の発見。

         9

雪の反抗
だが闇の一撃でじき打ち倒される、
忘却を死者たちに近づけ
大地を青ざめさせる絶好の時だ。
花咲くかわいい女 微笑する弱い女
新鮮なこめかみをもった水晶の娘たちが
激流のリズムにつれて
光を誘惑する 水に分け前をやるために。

墜ちる陽の光 流動する夜明け

彼女たちの接吻が目にとまらなくなるとき
彼女たちは獅子たちの口の中へ眠りにゆく。

         10

おまえの饑えをたべろ
漆喰(しっくい)が剥げ落ち 眠りの香気が
酔い心地を麻痺させる
この卵の中に入れ。
気の早い獣たち
透明な翼をもった朝の獣たちが
水の上を気取って歩く
さんご色の狼が女騎士のような茨(とげ)を誘惑する
島々にかむさる豊かな髪が
小鳥たちの房を蔽いなおす、
ナイチンゲールのようなイチゴの実が、湯気を立てるおのれの血を歌う
すると 目をまわした蠅たちは
星と氷塊と貝殻たちによって穴を穿たれた
一つの夜を夢みる。

重く 空が流れる けわしく
反射のない死者たちの空が。

         11

静かな水の中の根である反射
女騎士のような丘々
彼女らのロープの下で
不幸は己れの主人に話しかける
つんぼは家畜の群の怒りをもつ
ブナの小枝の束でつくった鞭が
忍従の外見(デコール)を見守るとき
小鳥たちは夜からとび発(た)つ
予備のシャンソンを積んで、
嵐の葡萄畑から
一羽のけたたましい雄鶏が噴き出る
収穫(とりいれ)は終った
楽譜台のうえに額(ひたい)が横たえられる
死者たちの鏡の上に寒さが横顔を置くように、
そして二つの相似のあいだに生まれる
眠りの 重い難破。

         12

通路の眺めがたちまち思想を外(そ)らす
一つの暗部が太る 自分の宇宙を探す
そして進行の方向へ
水平に墜ちる。

緑が街の肩を愛撫する
夕べが色硝子の中へ火を流しこむ
それはお祭りのときの
アルコールの扇だ。
鉛色の錯乱に口で吊された
一つの美味い顔 とその願い、その征服、
根気のいい いつもはじめての接吻であろうとする
生き生きとした口

生がのぞいて見える通路。

         13

ぼくは苦悩の地下室たちから
恐怖ののろのろとした曲線たちから 這い出る
そして一つの羽根の井戸に墜ちる、
閉じられた鏡の中に
思いがけなく
ぼくはきみらを見つける 罌粟(けし)たち
きみらは果実のように美しい
ずっしりと重い、おおぼくの主人たち
きみらは生きるための翼が要(い)る
それともぼくの夢が。

幼年は自分の家から出てゆこうとしない
宿題で顔を赤らめるために
生に値いするために、
一切の色をもつ遊びといっしょに、
丸坊主にされたノートたち 酸っぱい筆入れたち
一つの掌が閉じる 押しつけられる
すると子供の掌は
蛙のようになる。

だが ぐにゃぐにゃの
横柄な 粉っぽい奴は
つまずき 起き上がり 身体をゆする
赤むけの かわいい 奇妙な奴、
すばらしい正面(フアサード)と大きな血統台帳を備えて一つの宮殿が
奴にあいさつする 迎え入れそしてみちびく、
宮殿はつぎつぎと扉を開け、城砦を侮辱する、
引かれた 微笑のカーテンだ
三重の内部が
皺の数で計られたりすることがないように。

最短距離を走るトカゲが
一切の取越苦労を吹っとばす、
斧が振われ
一羽の小鳥を解放する
奇襲の羽搏き
杜はほんのすこしの間死ぬる。

赤毛の女たちの心棒 きらめきはじける外装
そして一切の地下の植物たちに対する この侮蔑
それは毒を祝福するために 熱を尊敬するために在る、
泉たちは影で飾られる
肉体は獲物をわかつ
だが肉体の青春(はる)は独房に閉じこめられる。

罌粟(けし)よ 献身せよ
種子たちのふらふらになった旅路のために。

         14

庭園たちの襲撃に
四季は同時に至るところに現われる
冬に替る夏の情熱
そして他の二つの季節の愛撫
追憶たちは羽根たちのように
樹々は空を壊した
露で台なしにされた美しい樫の木
小鳥たちの生 あるいは羽根たちの生
そして 微笑する怖れをもった
たわいもない この羽根飾り
とおしゃべりな孤独。


※『エリュアール詩集』(思潮社、1969年)、詩集「愛すなわち詩」(1929年)より                                
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by Fujii-Warabi | 2007-10-03 15:40 | 詩人・芸術家の紹介
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