佐川亜紀さんの詩のなかでもこの詩が好きです。

   人参畑で耳鳴り
                   佐川亜紀

スーパーで
ビニール袋にきっちり入れられた
マネキンの腕のような
マルスオレンジの人参
時の裂け目から
一本落ちて転がる

人参畑で耳鳴り
人参ふむなよ
あれは誰の声
人参畑のそばをデモ
人参みたいにまっ赤になって
Nが成田で死んでから十五年
Sが抗議自殺して二十三年
Hが直撃されて十六年
強制収用をこばみ続けたYが死んで十九年
農家の息子の警官も傷つき死んだ

人参ふむなよ
兵役・開拓・空港
「三度目の赤紙だ」
人参ふむなよ
肉じゃが煮くずすなよ
私は飯炊き女に来たんじゃない
あなただって男爵じゃないでしょう
って現闘の男に言ってやればよかったのに
言葉のみこんで
和菓子みたいにほほえんで
もっと煮くずした

人参ふむなよ
飛行機の音がゴオーと
彼らは何のために死んだのだろう
という問がゴオーと
耳切ったゴッホの肖像画
耳切ってもやまない耳鳴り
耳あっても聞けない耳鳴り
なくした土の耳

緑の息をしないコンクリート畑
人参ふむなよ
人間ふむなよ
一本落ちて転がり
ゴロゴロと
耳の奥の骨のように
ゴロゴロと



『佐川亜紀詩集 魂のダイバー』(潮流出版社、1993年刊)
[PR]
by Fujii-Warabi | 2007-05-06 12:57 | 詩人・芸術家の紹介
<< 『紫陽』第12号できました! 変えてみました。 >>