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「わらび」の詩歌

私が父にもらったたぶん最大の贈り物は名前だと思うのですが、この名前の由来を少し書こうと思います。
8歳ぐらいのときに学校で、名前の由来を親に訊いて作文してくる宿題が出され、この時に初めて私の名前の由来をきちんと聞いたような気がします。私はこの名前が目立つのとからかわれるのと聞き違いをされるのと大人にイヤミを言われるのできらいだったのですが、そのときに聞いた由来が印象的で今も忘れることはありません。
「わらび」は陽の当たる場所ですくすく育つシダ植物で、世の光の当たる所で大きく育ってほしいと願いつけられました。また、こぶしを握ったようなすくっと立つ姿から、まっすぐな強い子になるようになるようにという願いも込められました。
というような内容だったと記憶しています。私は子どもの頃から背が高く、両親によく「育ちすぎた」と言われていました(笑い)。

次に「わらび」の狂歌と詩を紹介したいと思います。

  さわらびが握りこぶしを振りあげて山の横つらはる風ぞ吹く
                        〈四方赤良(よものあから)『巴人集』〉

【通釈】もえ出たばかりのわらびが、春風に吹かれてゆれている。そのようすは、にぎりこぶしをふりあげて、山の横つらをひっぱたいている、といったところだ。

この狂歌はある老編集者に教えていただいたのですが、その時も素敵な歌だなと思いました。これから「山の横つらはる」ぐらいのパワーをつけてゆきたいものです。


   わらび
                          焦桐(チアオ・トン)

まだらにはげた塀のすみに
わらびが苦しげに芽を出した
いらただしげな根は
粗雑さに心休まらず 静寂に
心が安まらない いかにもびくびくと
外をうかがって 学びとる
謙虚さと剛毅さを学びとる

いかにも素朴なわらびが芽をふき
断固として雨後の塀に沿って伸びてゆく しかも
せまい土のなかで精いっぱい
辛い霜の冷たさに抗っている
こういう辛さはじっと耐えねばならない
土地の束縛に耐えるのだ

(誰かが除草機を使っている
音がすべての静けさを乱暴におおいつくす)

鮮やか緑がわらびを際立たせ
ひとつの信念を追求する
広大な闇のなか 黎明の縁に
遠くかすかに見えた気がする
陽光あふれる草原
草原の呼び声                1981
                           (池上貞子訳)

※『現代詩手帖 8月号』(思潮社、2006年8月)より


焦桐さんは台湾の現代詩人なのですが、この詩でも「さわらびが」の狂歌と同じく、「わらび」は世に抗う存在として描かれています。26年前の作品ですが、この国ではいまタイムリーですね。霜に耐えながらも伸びてゆかねばなりません。
by Fujii-Warabi | 2007-01-26 11:59 | わらび・シダ植物の詩歌
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